学生相談機関の共通データセットマニュアル

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はじめに

学生相談機関では数多くの個別相談が実施され、心理学的介入に関する多くのデータが蓄積されていますが、それぞれの大学が独自の方法で、相談件数や相談内容分類による集計を行っており、複数の大学の学生相談機関間での相互比較や、複数機関にまたがるデータの蓄積が困難な状況にあります。

アメリカのペンシルベニア州立大学のCenter for Collegiate Mental Health(CCMH)は、700校以上の学生相談機関から相談活動に関するビッグデータを収集して活用する取り組みを行っており、収集されたデータをもとに多くの研究が行われています。各大学の学生相談機関の相談活動に関するデータを収集するためには、共通の枠組みとしての「共通データセット」が必要になる。CCMHは、Standardized Data Set (SDS)という、相談活動についてのデータ収集のための標準化されたデータセットを用意していますが、クライエントやカウンセラーの人種や宗教といった、日本の学生相談実践では収集されていないような項目も多く含まれていたり、両国の学生相談のシステムが異なる部分も多いということもあり、このSDSを日本の学生相談にそのまま導入することは難しいと思われます。

そこで、私たちの研究グループでは、日本の学生相談機関における個別相談のデータベースや個別相談の利用データの集計に利用できる「共通データセット」を開発しました。このデータセットは、学生相談機関における個別相談のデータ収集の枠組みを共通化することで、ビッグデータを用いた学生相談活動の評価が可能になる枠組みを提供することを目指しています。

データセットの作成にあたっては、まず、本研究グループのメンバーが所属する7大学で、学生相談の実践で用いられているデータ収集項目を参考にしました。その上で、日本の学生相談機関が、個別相談でどのような情報を収集し記録しているかについて、2021年10月〜11月に、学生相談機関・学生相談担当者としたオンライン調査を実施し、32校の学生相談機関・学生相談担当者から回答を得ました。この調査結果やCCMHのデータ収集の枠組みを参考にしながら、この「共通データセット」が開発されました。

本マニュアルは、日本の学生相談機関の相談記録のデータベースや個別相談の利用データの集計に利用できる枠組みである「共通データセット」を紹介しています。

<aside> 💡 この共通データセットは、JSPS科研費 基盤研究(C)「多機関によるビッグデータ収集の基盤としての臨床実践の共通データセット開発(課題番号:20K03387)」の研究成果として開発されたものです。

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データセットの使い方

(1) 項目の利用

この共通データセットは、(1)クライエント情報、(2)コンサルティ情報、(3)担当カウンセラー情報、(4)セッション情報、(5)相談内容分類、の5種類のテーブルから構成されています。データセットの個々の項目については、それぞれの学生相談機関における実践のあり方に合わせて、自由に項目を組み合わせて利用することができます。

データセット全体のうち、(1)クライエント情報、(2)コンサルティ情報、(3)担当カウンセラー情報、(4)セッション情報、の各テーブルについては、必須項目以外は自由に取捨選択が可能です。(5)相談内容分類のテーブルについては、改変せずに利用することを推奨します。

各テーブルには、項目番号、項目名、選択肢、必須、収集、備考の各欄が設けられています。項目番号の欄には、項目ごとに一意の名称が振られています。項目名は、収集するデータの項目名です。選択肢の欄には、本データセットで指定された選択肢、もしくは、その項目に保存されるデータ型が示されています。選択肢が空欄の項目は、各学校ごとに選択肢を設定したり、自由記述の項目とすることができる項目です。必須の欄に「○」が付された項目は、学生相談機関による個別相談についての基本的なデータ項目として指定されたものです。収集の欄に「○」が付された項目は、学生相談機関をまたいだデータ収集で用いられる項目です。

(2) 必須項目

学生相談機関による個別相談についての基本的なデータ項目として、必須の収集項目として設定された項目です。不都合がない限り、選択肢を含めて、そのまま利用することを推奨します。

(3) データ収集項目

後述する学生相談機関をまたぐ情報収集時に用いられる項目です。学生相談機関をまたいだ情報収集については、利用者等の個人が特定されない情報を収集することを前提としています。

データセットの構造